麻雀放浪記とは?原作小説の成り立ちから映画版の内容まで徹底解説

この記事を読んでいるあなたは

  • 麻雀放浪記とはどのような物語なのか知りたい
  • 麻雀放浪記はフィクションか実話か知りたい
  • 「哲也~雀聖と呼ばれた男~」との関わりについて知りたい

上記のように考えているかもしれません。
この記事では、麻雀放浪記について、さまざまな疑問にお答えしていきます。

原作である小説版だけではなく、映画版・漫画版のストーリーについても解説していきますので、ぜひ参考にしてください。

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麻雀放浪記とは

麻雀放浪記は、阿佐田哲也が1969~1972年に渡り執筆していた小説です。
計4シリーズで構成され、昭和の麻雀ブームの火付け役となりました。

はじめに、麻雀放浪記のストーリーについて、解説していきます。

主人公・哲がバイニンに成長するまでの物語

麻雀放浪記は、主人公・哲がバイニン(※)として成長していくさまを描いた物語です。

青春編~番外編までの全4巻で構成されますが、1巻単位である程度の区切りがつくので、メディア化されるのは青春編が多いです。

※バイニンとは博打打ちを指す言葉で、麻雀で生計を立てる人、並外れた博打センスを持つ人のこと

第1巻・青春編

青春編は、主人公・哲が工場勤務時代の同僚・上州虎に再会するところから始まります。
仕事が決まらず、親に渡す金銭の工面に困っていた哲は、虎が通うチンチロ部落に足を運び、バイニンとしての一歩を踏み出すのでした。

ドサ健や出目徳、女衒の達といったバイニンたちとの出会いや、オックスクラブのママとの恋を通じて、麻雀にのめり込んでいく哲。情勢が安定しない戦後の日本で、仕事も家も持たない青年がどう生きるかを描いた作品です。

第2巻・風雲編

青春編ラストの激闘から数年。哲は晩年の出目徳と同じように、薬物中毒に悩まされていました。

麻雀を打っている最中にも、幻覚に悩まされる哲。加えて、代打ち業の最中にイカサマ行為がばれ、指を詰めることを強要されてしまいます。
その場はなんとか切り抜けた哲は、逃げるように東京を去り、大阪に拠点を移してバイニンとして生きていくのでした。

第3巻・激闘編

舞台は、敗戦後から7年後の東京。23歳になった哲は、麻雀の打ちすぎのためか、ボロボロの体になっていました。
ひじが上がらないためにイカサマ技は使えず、さらには高度経済成長期に入ったことで、世間からの麻雀の扱いも変化しています。

麻雀は娯楽という扱いに成り代わり、麻雀を打ちに来るのは本業を持っている人たちばかりです。
本当の意味での博打打ちが減っていく世界で、バイニンたちはどう生きていくのかを描きます。

第4巻・番外編

番外編における哲は、麻雀の世界から足を洗い、サラリーマンになっています。代わりに主人公として描かれるのは、九州に住むバイニン・李憶春です。

哲はサラリーマンとなっても麻雀の世界を忘れられず、出張先で入った雀荘で李に出会います。
そして、哲の麻雀に触れた李は「もう一度哲と勝負したい」という一心で関東に旅立つのでした。

番外編と銘打たれた今作では、李やガスという新たなバイニンを加えつつ、因縁の相手であるドサ健も登場。麻雀が趣味や娯楽として捉えられるようになった時代で、バイニンたちがどう生きたのかを描く完結編です。

はじめて牌活字が使用された小説

麻雀放浪記は、はじめて牌活字が使用された小説でもあります。

麻雀放浪記以前の麻雀書にも牌は出てきますが、それは活字ではなく、小さな活字を組み合わせてハンコ状にしたものだったのです。

そのハンコを活字に昇格したのが、阿佐田哲也の麻雀放浪記からだと言われています。

加えて、小説内に配牌図を入れる形式を作ったのも、阿佐田哲也です。
麻雀放浪記では、登場人物の手牌を図として差し込まれ、盤面状況がひと目で分かるようになっています。
これは他の作家にも影響を与え、「麻雀小説」という新たなジャンルを確立しました。

麻雀放浪記は実話?

麻雀放浪記は、阿佐田”哲也”が描く、”坊や哲”の物語。一人称に「私」が使用されていることも相まって、「実話なのでは?」と言われることも少なくありません。

実際のところはどうなのか、経歴や阿佐田哲也に関する書物の中から読み解きます。

実体験をもとに作られたフィクション

結論から先に言うと、麻雀放浪記は実話ではありません。

そもそも坊や哲は20代前半で薬物中毒になり、26歳のときには肘が上がらないほどに体を壊しながらも博打打ちとして生活していますよね。
一方で阿佐田哲也は、中学校中退後、一時は博打の世界に足を踏み入れるものの、22歳で出版社に勤め始めています。

坊や哲と阿佐田哲也の年齢が一致していること、工場で勤務していた経験があることなど、共通点は多いですが、麻雀放浪記を完全なる自叙伝とは言えないでしょう。

加えて、ドサ健や出目徳については、当時の博打打ちの典型として作り上げた人物であり、モデルは存在しないと語られています(「ギャンブル人生論」より)。

経験に基づく記述を混ぜ込みながらも、あくまで娯楽諸説として書き上げたのが、麻雀放浪記なのです。

作者・阿佐田哲也とは

そもそも、阿佐田哲也という名前は、ギャンブル小説を書くために使用していたペンネームです。
徹夜麻雀を由来としていて、「朝だ!徹夜だ!」という言葉からネーミングされたと言われています。

本名は「色川武大(いろかわたけひろ)」ですので、阿佐田哲也が「坊や哲」と呼ばれて麻雀を打っていたわけではありません。

阿佐田哲也と麻雀

阿佐田哲也は、麻雀小説の執筆によって麻雀ブームを牽引しただけではなく、麻雀戦術書の執筆や麻雀新撰組の設立など、麻雀を広める活動に積極的に関わっていました。

麻雀をギャンブルではなく、知的なゲームとして広めたのも、阿佐田哲也だと言われています。

このような経歴から阿佐田哲也は「雀聖」と呼ばれるようになり、その生き様は神格化され、現在まで受け継がれています。

一部のキャラクターにはモデルが存在

1973年に発行された麻雀雑誌・近代麻雀臨時増刊号にて、「モデルが語る麻雀放浪記」という特集が掲載されました。

これは、麻雀放浪記に登場するキャラクターのうち、坊や哲・ガン牌野郎・女衒の達と、捕鯨船の男(※)に登場するダンチ、計4人のモデルが集まって、座談会をおこなうという企画です。

この座談会において、坊や哲のモデルとなった人物として挙げられていたのは、阿佐田哲也本人でした。

モデルという言葉を使っていることからも、実在する人物をありのまま描いたわけではないでしょう。
しかし、坊や哲はある程度自分に似せて書いた人物であり、他にも数名似ている人物が存在した、ということは間違いなさそうですね。

※捕鯨船の男:阿佐田哲也が執筆した麻雀小説のひとつ

各メディアの麻雀放浪記

麻雀放浪記は、小説をもとにさまざまなメディアミックスがされています。
ここでは、漫画版、映画版の麻雀放浪記について、解説していきます。

漫画「麻雀放浪記」

出典:https://www.futabasha.co.jp/

小説版の第1巻・青春編をコミカライズした作品です。
劇画担当は、「天牌」の著者としても名が知られている漫画家・嶺岸信明さんです。
2017年、週刊大衆にて連載がスタートし、全10巻で完結しています。

ちなみに現在は風雲編が連載中ですので、青春編にハマった人はぜひこちらも読んでみてください。

ストーリー

終戦直後、哲は仕事に就けていないことを家族に言えないまま、ただ外で時間をつぶす日々を送っていました。
そんな折り、かつての同僚であった虎と再会。虎に行きつけの賭博場を紹介してもらった哲は、バイニンとして生きることを選びます。

原作との違い

小説版と漫画版の大きな違いは、哲が打っている麻雀のルールです。
原作ではアルシーアル麻雀、漫画版ではリーチ麻雀が採用されています。

原作では、はじめてアメリカ人と麻雀を打った際に、哲は「リーチってなんだ」と発言しています。

対して漫画版では、アルシーアルという名称が出てくることはありません。
最初から最後まで、誰と勝負をするときにもリーチ麻雀で打っているため、昭和の麻雀を知らない人にも理解しやすくなっています。

映画「麻雀放浪記(1984年版)」

青春編のストーリーを映像化した作品です。
この頃の映画はカラーが主流ですが、あえて全編モノクロで作り上げることによって、戦後まもない雰囲気を表現しているのが特徴です。

桜井章一が指導役として携わっており、燕返しなどのイカサマ技も実写で再現されています。

ストーリー

舞台は敗戦後の上野。主人公の哲が上州虎と再会するシーンからスタートします。
虎に連れられてチンチロ部落に向かった哲は、本物の博打打ち・ドサ健と出会い、博打の世界に深くのめり込んでいくのでした。

原作との違い

小説1巻分の内容を106分に収めているため、ストーリー展開はやや早足、かつ所々に変更点があります。
原作では麻雀勝負をするシーンが丁半に変わっていたり、出目徳亡き後三麻に切り替えるシーンが虎を含めての四麻に変わっていたりと、物語の要は抑えながらもアレンジが加わっています。

また、麻雀シーンの細かな牌譜描写を省き、キャラクター同士の関係性をメインに描くことで、ヒューマンドラマとしての印象が強まっているのも特徴です。

映画「麻雀放浪記2020」

出典:https://www.toei.co.jp/movie/details/1213490_951.html

「35年の時を経て、麻雀放浪記が最映画化」と銘打たれた作品ですが、実際は新作映画かと思うほどストーリーやキャラクターが変わっています。

ジャンルとしてはSFコメディ映画で、原作とは方向性そのものが異なります。

ストーリー

時は1945年。哲は雀荘オックスクラブで麻雀に興じる最中、未来へタイムスリップしてしまいます。
哲が飛ばされたのは、第三次世界大戦で敗戦し、東京オリンピックが開催中止となった日本でした。

原作との違い

全編を通して、原作麻雀放浪記とは別物です。
1945年の世界線では哲、ドサ健、出目徳、ママの4人で麻雀を打っていたり、2020年に飛んだ先で出会ったドテ子は地下アイドルをしていたりと、あらゆる設定が原作とは異なります。

麻雀放浪記の映画版というよりは、二次創作に近い作品です。

「哲也~雀聖と呼ばれた男~」と「麻雀放浪記」

出典:https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000002100

麻雀放浪記と関係性が深い作品に、「哲也~雀聖と呼ばれた男~」があります。

戦後の日本を舞台にしており、主人公・哲也がバイニンとして成長していくさまを描いた物語です。
この設定を聞くと、まるで麻雀放浪記の漫画版のような印象ですね。

しかし、哲也とともに工場勤務していた人物は名もないおっちゃんですし、ガン牌を使うのは印南善一という男です。

似ているようで違うこの作品はどのようなつながりがあるのか、作品の成り立ちと、麻雀放浪記との違いについて解説します。

麻雀放浪記以外の阿佐田作品も含めた内容

「哲也~雀聖と呼ばれた男~」は、さまざまな阿佐田作品を含めて書かれた漫画です。

「麻雀放浪記」「ドサ健ばくち地獄」「捕鯨船の男」などの作品を参考・再構築したストーリーとなっており、小説に登場した人物やエピソードも垣間見れます。

ドサ健はそのままの名前で出てきますし、出目徳は房州と名前を変えているものの、2の2天和や通しを使うという麻雀放浪記の設定そのままで描かれています。
麻雀放浪記を知っている人であれば、共通点を探しながら読むのもおすすめです。

主人公は「哲也」

サブタイトルが「雀聖と呼ばれた男」になっていることからもわかるとおり、主人公は阿佐田哲也本人として描かれています。

哲也が文学の教養を持っていたり、ナルコレプシーに悩まされたり(※)と、作家・阿佐田哲也を連想させる描写が多いのが特徴です。

※ナルコレプシーは、阿佐田哲也が発症していたとされる睡眠障害

麻雀放浪記は昭和の麻雀ブームを引き起こした人気小説

麻雀放浪記は、阿佐田哲也原作のギャンブル小説です。

「麻雀小説」という新ジャンルを確立した作品でもあり、個性豊かなバイニンたちの生き様を描いたややダークな内容は、多くの人を惹きつけました。
麻雀放浪記に触発されて博打の世界に足を踏み入れた人も、1人や2人ではなかったようです。

2度に渡って映画化がなされ、漫画版に至っては現在も連載中。原作小説は、電子版にもなっています。

令和の今でも十分楽しめる内容となっていますので、興味のある人はぜひ、麻雀放浪記に触れてみてください。